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改修コストをかけずに物流倉庫業務を効率化!

人手作業を削減する「HAKO-FLO(ハコフロ)」の活用事例
日本工業出版「月刊自動認識」2022年8月号(8月10日発刊)

Tokyo Electron Device America, Inc.
COO 濱野 泰博

物流管理ソリューション「HAKO-FLO(ハコフロ)」を活用し、入出庫時の計測、検品などの『入出荷管理』、『在庫管理』、『棚卸し管理』、貨物の損傷レポート作成といった『書類作成』など、人手のかかるマニュアル作業を効率化する事例の一部をご紹介する。

◆はじめに

近年のインターネット通販市場規模の急増とともに物流量が増大する中、マニュアル作業を削減し、既存の倉庫管理システムの改修コストをかけずに、効果的な運用へのシフトが求められている。物流倉庫においては、荷物の受入れ、保管や出庫にかかわる多くの業務を人手によるマニュアル作業で管理しているケースがある。そこでは荷物の取り間違えや取り間違えに伴う返品費用の発生、在庫数量の正確な把握、棚や倉庫内の空きスペースの有効活用、人員不足による配送遅延の解消や人件費の抑制など、解決しなければならない課題が多いのが現状である。

TOKYO ELECTRON DEVICE AMERICA が開発した物流管理ソリューション「HAKO-FLO(ハコフロ)」は、既存のシステムで発生する入荷時や出荷時の『計測』『検品』などの『入荷管理』をはじめとして、『在庫管理』『出荷管理』『棚卸し管理』外装箱の損傷レポート作成といった『書類作成』など、人手のかかるマニュアル作業を、クラウドやオンプレミスで提供する専用のソフトウェアで管理し、効率化することで、ユーザーの既存システムと連携して効率化をサポートするサービスだ。

HAKO-FLO のサービスは、箱の情報を端末で素早く検出する「RFID」、箱のサイズを自動計測する「LIDAR」、箱をAR採寸してレポートを作成する「EZ-Report」、箱の追跡を行う「Tracking」、データを可視化する「Cloud」の5つのサービスで構成する。HAKO-FLOはサービスの一部だけでも利用可能。ユーザーの倉庫作業に合わせた最適な形に組み合わせることができる。(図1)また、少ない初期投資から始められるサブスクリプションプランによりスモールスタートも可能だ。

図1 – HAKO-FLO 導入イメージ

◆開発の背景

TOKYO ELECTRON DEVICE AMERICA では 3年ほど前に米国拠点の統合を行い、シリコンバレーの先端技術やスタートアップなどの調査を行いながら、自社製品やサービスを開発できる体制を構築した。米国における新しい事業を模索している中、商社ビジネスでお付き合いのある製造業や物流業のユーザーから物流に関連するさまざまな課題について調査し、デジタル技術を活用して改善するお手伝いができるのではと考えた。ユーザーの倉庫に足を運び、作業工程を細かく分析し、どこに真の課題があるのか、それをどのようにすれば改善できるのかを繰り返し議論し、課題解決型のアプリケーションサービスを開発した。今回はそのソリューションの中から「EZ-Report」と「RFID Query」を活用して、既存システムの改修コストをかけずに業務効率化を実現した事例を紹介する。

◆LiDAR を活用した AR採寸による業務効率改善

1)マニュアル作業による課題
全米で物流倉庫を持ち事業を展開しているユーザーは、貨物到着時に外装箱の損傷チェックや、出荷時に外装箱の採寸を実施している。損傷が発生した場合は、目視による損傷チェックを行い、デジカメや携帯などで写真を撮り、PC に取り込んで損傷レポートにまとめてユーザーへ送付するという作業を、1日あたり数十件実施しているケースがある。発生するたびに、オフィス側から倉庫現場へ駆けつけて対応するので 1件につき 30分以上を要する。また、出荷時の採寸はメジャーを使ってマニュアルで採寸しており、大型の荷物を採寸する際の作業負荷が大きく、採寸情報のデータベース化も難しい状況がある。

2)課題を解消する方法
「HAKO-FLO EZ-Report」では LiDARセンサーが搭載された iPad Pro に弊社アプリケーションをインストールしたタブレット端末で AR採寸、写真撮影、テキスト入力、レポート作成までの一連の作業を完了させることが可能だ。これまで個別のツールを使い分散していた作業をタブレット端末のみで完結することで作業効率が向上し、作業時間を短縮する。弊社の実績では 80%以上の作業時間の短縮を実現した。また、1メートル以上の大型貨物でも AR採寸機能を使うことで楽に、素早く採寸することができる。(図2)
現在 ToFカメラを活用した自動採寸アプリの開発も進めており、固定カメラでより楽に、素早く、正確に採寸できるサービスが追加される予定だ。

図2 – EZ Report による AR採寸とダメージレポート

3)クラウドの活用方法
タブレット端末で作成した外装箱損傷レポートや、得られた採寸データは「HAKO-FLO CLOUD」へアップロードすることで簡単にデータベースを作成できる。さらにバックオフィスや他の拠点との情報共有が可能になる。クラウド上のデータを分析・活用することで、輸送品質の向上にも役立てることができる。(図3)また、紙を一切使用しないため、ペーパーレス化の推進も可能だ。

図3 – クラウドでデータベース化

続いて、RFIDを活用した取り組みをご紹介する。

◆RFID を活用した業務効率改善

米国西海岸で物流業を展開されているユーザーの倉庫では、日本酒の保管・発送業務を委託されており、毎月 2~3千箱の出荷業務が行われているが、作業工程では多くの課題が存在していた。

1) 倉庫業務における課題
マニュアル作業による課題や市況的背景、地域的背景からくる課題など多岐に渡ることが判明した。

・目視で出荷検品を 1点ずつ突き合わせるため、業務負荷が大きい
・作業員がパッケージに書かれている日本語が読めないため、出荷検品のミスが発生
・冷蔵倉庫の中での長時間の目視作業負荷が大きい
・オフィスと倉庫を行き来している時間が多い
・棚卸に時間がかかっている
・ミスロケーションの商品を探すために時間がかかる
・作業員の入れ替わりが激しく、作業員により作業レベルが安定しない
・人件費の高騰

このような様々な課題に対して、照合機能を持つアプリケーション「RFID Query」を活用して業務効率の改善を目指した。

2)準備
RFID を活用するためには、対象貨物に RFIDタグを貼付してどの程度の精度で読み取れるか、事前に精度検証が必要となる。RFID は 100%の読取保障はしておらず、対象貨物の内容や対象との距離によって読取精度が変わるため、実際の運用で 100%に近づけるための実証実験が必須である。RFIDタグにもさまざまな種類があるため、どのタグが最適であるか、現場の作業環境や対象貨物を把握しながら選定する必要がある。(図4)
また、作業工程の中で RFIDタグを貼付する工程が発生するが、既存の作業工程に大きな影響を与えず、タグの貼り間違えを防ぐための工夫も重要となる。
使用する RFIDタグが決まったら、必要情報を専用の RFIDプリンタでタグへ印字・エンコードして、対象貨物へタグを貼付していく。

図4 – RFIDタグの特性

3)運用
対象貨物へタグを貼付後、「RFID Query」アプリが搭載されている RFIDリーダー端末を使い、実際の作業を行う。一般的な作業工程では入荷・入庫検収から出荷検品まで幅広く利用可能だ。今回はピッキング・出荷検品と、棚卸のシーンについて紹介する。(図5)

図5 – 倉庫内の作業の流れ

3 -1)ピッキング・出荷検品
WMS(倉庫管理システム)から出力される出荷リスト(CSVファイル)を RFIDリーダー端末に取り込み、リーダー端末側でピッキング対象を選択する。出荷する荷物を棚からピッキング後、ピッキング対象をリーダーでスキャンすると、ピッキング対象が間違いなく、必要な個数がスキャンされたかどうかの照合結果が画面に瞬時に表示される。作業員は出荷貨物を一点一点目視で確認することなく、照合結果を参照することで、間違った荷物をピッキングしていないか、数量を必要数より多く、または少なくピッキングしていないか確認することが出来る。その結果、誤出荷を防ぎ、作業時間の短縮につなげることが可能となる。(図6)

3 -2)棚卸
WMS から出力される在庫リスト(CSVファイル)を RFIDリーダー端末に取り込み、リーダー端末側で棚卸対象エリア(棚)を選択する。対象の棚にある在庫をリーダー端末でスキャンすると、選択エリア(棚)に含まれる棚卸対象の貨物がリストに存在するか照合結果が瞬時に表示される。在庫リストと実際に棚にある貨物の数量が合致しているか1点ずつ確認することなく、まとめて瞬時に確認することが出来る。作業時間の大幅な短縮に繋がり、棚卸回数を増やして在庫数量管理の精度向上にも役立てることができる。また、長距離対応のRFIDリーダー端末を使えば、10メートルなどの高い棚に登ることなくグランドレベルから貨物を確認することができるため作業員の安全確保にも貢献できる。

3 -3)貨物探索
RFID Query アプリには RFIDタグの電波受信の強度を利用した貨物サーチモードが用意されている。RFIDリーダー端末でサーチモードに設定し、端末を左右に振りながらダウジングのような動作を行うと、タグから返ってくる電波の強弱により該当貨物が置かれている方向を探ることができ、WMS で指定された場所にない貨物を探すことができる。(図6)勘や経験を頼りに貨物を探し回る従来の方法と比べて、探索時間の大幅な短縮に役立てることができる。

図6 – HAKO-FLO Query紹介

<HAKO-FLO Query紹介>

このような特徴を持つ「RFID Query」を活用することにより、上述の課題が以下のように解消された。

【課題1】目視で出荷検品を、1点ずつ突き合わせるため、業務負荷が大きい
     → RFID による一括照合により、検品時間が短縮され、作業員の業務負荷が低減
【課題2】パッケージに書かれている日本語が読めないため、出荷検品のミスが発生
     → データ照合機能により、文字が読めなくても検品ミスを防止
【課題3】冷蔵倉庫の中での長時間の目視作業負荷が大きい
     → RFID による一括照合により、作業時間が短縮され業務負荷が低減
【課題4】オフィスと倉庫を行き来している時間が多い
     → 誰でも同一の作業ができるため倉庫現場で作業を完結
【課題5】作業員の入れ替わりが激しく、作業員により作業レベルが安定しない
     → 誰でも同一の作業ができるため作業品質レベルが安定
【課題6】人件費の高騰
     → 作業時間短縮による効率化で人件費や残業代を抑制
【課題7】ミスロケーションの商品を探すために時間がかかる
     → サーチモード機能により、探索時間を短縮

4)クラウドの活用方法
RFIDリーダー端末で取得した貨物データをクラウドにアップロードしてデータを蓄積・可視化することで、以下のような活用方法が期待できる。

・どの箱が、どこに、何個あるかを示す資産管理データとして活用(MAP表示可能:図7)
・物量増減の統計データとして需要予測に活用
・ユーザーへの出荷時の状態を示すエビデンスデータとして活用
・入庫時からどの程度倉庫に滞留しているかを示す滞留在庫データとして在庫管理に活用
・クラウド上にある元データと実際に読み込まれたデータを比較し、比較データとして倉庫現場でのミス防止に活用
・遠隔地から複数拠点を含む倉庫運用状況をリアルタイムに把握し、問題発生時のリスク対策として活用

図7 – RFID情報の地図上へのマッピング

RFID から得られるデータとクラウドが提供する可視化や分析機能を組み合わせることで、より多面的なデータ利用の可能性が広がっていく。弊社ではユーザーからのフィードバックやマーケットトレンドを基に、より多くのシーンで活用できるクラウドサービスを継続的に開発していく予定だ。

◆おわりに

本稿では、既存システムを改修することなく、既存システムと連携しながら RFID や LiDAR機能、クラウドを活用して物流倉庫業務を効率化する方法について事例を交えて紹介した。
弊社では、ユーザーのスケジュールに沿って短期間でサービス導入できるように心がけており、最短 3ヵ月程度で導入可能となるが、最初の段階でのコンサルテーションを通してユーザーの課題を明確化することにしっかりと時間を割くようにしている。(図8)既に明確化されている課題はもちろんのこと、まだ明確化されていなかった課題も含めて、入庫から出庫までのプロセスの中で最終的にどのようなオペレーションにしたいかを共有し、既存の WMS が提供できないペインポイントをさまざまな提案でサポートし、実運用面で確実に改善効果が出せるサービスを提供していく。

図8 – HAKO-FLO 導入ステップ

販売形態は通常の一括販売の他、全てのサービスでサブスクリプションプランも用意しており、まずは少ない投資から始めたいという要望にもお応えしている。例えば、上述の「RFID Query」サービスであれば、月額 $270/台(5台契約時)でサービス導入が可能だ。

「メーカー機能を持つ技術商社」から「技術商社機能を持つメーカー」へ進化を目指す弊社は、「物流クライシスの解消にコミットする」ことをスローガンとして、物流の重要性を理解し、物流現場の課題に寄り添い、最適な技術ソリューションでユーザーの企業価値向上に貢献してきたいと考えている。